Overview about this real estate
明治27年という古い登記記録が残る希少なこの京町家は、2階の天井が低く虫籠窓がある厨子二階(つしにかい)と呼ばれる形式、坪庭へ向かって居室が連なる空間構成、繊細な細工が施された欄間、経年変化特有の風合いを持つ箱階段など、建築当時の面影を留めていました。
リノベーションではそれらの面影や古いにしか出せない趣をできうるかぎり残し、既存のしつらえを修復・再生し、必要な箇所のみ現代の生活様式を取り入れるよう計画しました。
Point about this real estate
明治時代の面影を
受け継ぐ。
建築当時の趣を色濃く残した京町家
建物の中央に位置する「中の間」から座敷と坪庭を見て。奥に向かって居室が縦に連続する典型的な京町家の間取りを残した建物です。建具や欄間が柔らかく空間を区切ることで視覚的な立体感を生み出し、また間口に対して奥行が長い京町家は1階の中央部分が暗くなりがちですが、その暗さがかえって坪庭からの光を際立たせ、建物全体の雰囲気を高めています。
比較的良好な状態で残されていた大和天井は一部のみ補修を行い、古い木材の風合いを生かしています。
経年変化ならではの美しさを楽しむ
中の間と座敷の間仕切り建具上部の欄間。所々に見える欠けが、この京町家が刻んできた歴史の深さを感じさせます。
箱階段がアートとなり空間に映える
中の間に置いた箱階段は、元々この場所に設置されていたものを修復しています。明治の建築当時からこの町家にあったものと思われ、相応の経年変化がありましたが、職人の手により一度解体してから丁寧に修復し、ふたたび同じ場所に取り付けました。垂れ壁に隠すように配灯したスポットライトが箱階段のシルエットを印象的に浮かび上がらせています。階段横の空いたスペースにはインテリアやアートを飾り、こだわりのギャラリーとして空間を彩る楽しみがあります。
吊り棚と京唐紙が引き立てる静謐の座敷
中の間の奥、坪庭をのぞむ座敷。床脇には簡素な収納棚が造り付けられていましたが、リノベーションにより撤去し、古材と竹のシンプルな吊り棚を新設して床脇を再生しました。
中の間との間仕切り襖と床脇の天袋には伝統的な手摺の技法で作られた京からかみをあしらい、原紙と摺色、塗り壁を同じトーンでまとめることで、閑静で落ち着いた雰囲気を高めています。唐紙の紋様は光悦桐で統一していますが、摺り色を座敷側は金、中の間側は雲母とすることで、それぞれ異なる印象を演出しています。
「眺める」と「過ごす」二つを叶える坪庭
座敷から坪庭を見たところ。既存の築山や水鉢、石、大きな金木犀を大切に残して作庭を行いました。
縁側から続く飛石の先には茶室の腰掛待合をイメージした屋根付きのスペースがあり、床几(しょうぎ)に座ってゆったりと坪庭を鑑賞できるようにしています。軒に吊るしたすだれは祇園界隈のお茶屋や料亭のすだれを手掛ける東山の老舗店のもの。いぶし葦ならではの落ち着いた風合いが座敷からの眺めに趣を添えます。
Point about this real estate
古いものと新しいものが
調和する。
既存の段差を生かしたダイニング・キッチン
表の通りに面したDK。元々作業場や店舗スペース等として使用されていたと思われ、床レベルが中の間より一段下がっている点が特徴です。既存の段差をそのまま活かし、テーブルと椅子で過ごす現代的な空間にリノベーションしています。床はナラ材に透明の保護材のみを塗布し、木材本来の質感や風合いの心地よさを引き出しています。天井は中の間と同様に既存の大和天井を補修し古いものの趣を残しています。
Point about this real estate
光が素材の質感を
際立たせる。
天窓からの光が左官の美しい質感を際立たせる
階段横の壁は既存の土壁の凹凸をあえて残しながら左官で補修しています。天窓からの自然光が凹凸と塗り壁の質感を引き立て、光の入り方によってはっとするような美しい表情を見せます。
Point about this real estate
ファサードを復元し
町の記憶を残す。
典型的な京町家の意匠を再生する
外観は、2階の階高が低い厨子二階(つしにかい)と呼ばれる江戸~明治期に見られる典型的な京町家の形状をそのまま残しています。
腰窓の中央部に新設した葦の建具は元々この町家に設置されていたものを復元。近隣の京町家にも多く見られる特徴的な意匠です。表の通を行き交う人の目線を遮りながら風を通すために設置されていたと思われ、当時の人々の美意識や生活の様子がうかがえます。”
Point about this real estate
明治時代の京町家。